宮城県仙台市で生まれ育ち、山形県山形市の大学で学んだ針生卓治さん。山梨で暮らすようになったのは2010年4月のことでした。
「大学院卒業後も、就職せず創作活動を続けたいと恩師に相談した際に、北杜市長坂に所有するアトリエを自由に使って良いとおっしゃっていただいたのがきっかけでした。美しい自然に囲まれた落ち着いた環境にあり、なおかつ作品の発表の場である東京とも近いという理想的な創作環境で、改めて自分と向き合う時間を持つことができました」と、当時を笑顔で振り返ります。

「学生時代は、動物を描いていました。核となるものがあるということには、踏み込んで掘り下げていける良さがあるのですが、山梨に来た頃の僕にはそこに縛られている感覚があり、息苦しさや行き詰まりを感じていました。また、今後も創作を続けていくことは相当大変なことだという自覚もあったので、長坂での2年間は、メインの作品を創作するかたわらで、色遊びや表現手法の実験などを盛んに繰り返しました」。そうしたなかで見出した一つの方向性が、色彩や線描にこだわった抽象画であり、メインテーマの一つ「窓」だったと言います。

その後、『自分の創作の原点は、人の暮らしの中にあるのではないか』との気付きから、長坂を離れ、甲斐市内の住宅地にアトリエ兼自宅を構えた針生さん。「ここは、目を上げると山々の稜線が見え、空の色や風の匂いに季節感が感じられるのに、窓の外には家々があり、いろいろな声や生活音も聞こえてくる。創作に行き詰ったときなどにふらりと散歩に出るのですが、気分転換ができ、新たな刺激も得られて、とても良い所だなと感じています」。

現在は、公立学校で講師をしながら、創作活動に勤しむ日々。できるだけ多くの人に作品を見てもらいたいと、展覧会への出展や個展の開催にも積極的に取り組んでいます。
「僕の絵を見た人が、何かを感じ、それを言葉にして僕に投げかけてくれる。そこから始まる会話には、互いを映し合うような部分があり、互いを高めていけるような気付きもあって、とても楽しいですね。そういった〝人とのつながり〞が、僕が自分の作品に対して期待することであり、創作活動を続けている最大の理由でもあるので、できるだけ多くの方に見てもらいたいと思っています。


絵を描いていて『しんどいなぁ』と思うことはたくさんありますし、普通の人生から離れていくジレンマもあるのですが、これは絵をやっていたからこそ巡り会えた経験だなと思える瞬間も多々あって、そう考えると、やっぱり、素晴らしいことをやっているんだなぁと思いますね」。

PROFILE
針生 卓治 (はりう たくじ)
1984年 宮城県仙台市生まれ。
[個展] 2014年 個展-窓辺にて-/アートスペース羅針盤・東京
2016年 個展-層-/アートスペース羅針盤・東京
http://www.takujihariu.com/